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愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」 Posted on 2022/07/17 ウエマツチヱ プロダクトデザイナー フランス・パリ

 
日本のハイテクなトイレの温水洗浄便座は、世界中で知られる存在だが、それに付いている「ビデ」ボタンの意味について、考えたことはなかった。
イタリア出張に来て、何かイタリアらしいもののデザインを紹介したいと思っていたら、ホテルに着くなり出会ってしまった。
それは「ビデ」。
 

愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」



 
一緒に出張していたフランス人の同僚たちに聞くと「昔はフランスにもあったけど、さすがに今使っている人はいないだろう」という反応。
「ホテルの洗面所に付いているのは昔に建てられたものだから、使われていた当時の名残が残っているに違いない」とも。
ただ、製品としては真新しく見えたので、イマイチ納得がいかなかった。
唯一、南仏出身の子だけが、実家で今でもお母さんが使っているといっていた。
仕事の後の飲み会で、ほろ酔い気味のイタリア人の仕事仲間たちに、さり気なくビデについて聞いてみた。
「もちろん使っているよ!」、「イタリアを象徴するプロダクトだね」、「無しには生きていけないわ」と、皆、口々にビデの素晴らしさを熱く語る。
なるべく多くの人に話を聞くべく、滞在期間中、場所を変え、人を変え、述べ10人以上に聞いたが、みな同じ反応だった。
私は「ビデについて興味津々の日本人」という印象を与えたことだろう。
 

愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」

※ビデと便座と同じデザインが基本

地球カレッジ



 
フランスでは「トワレット・ド・シャ(猫の洗面)」という、両脇、臀部、両足の5点のみを洗う方法がある。
南仏出身の子曰く、洗面台で両脇、ビデで臀部と両足を洗うという。
南仏と北イタリアは、だいたい同じ緯度にあり、パリに比べるとだいぶ南に位置するので、とても暑い。
汗ばんだとき、サッと、素早くリフレッシュでき、手軽で良いという。
シャワーに比べて、節水になるのも魅力のようだ。
また、便秘気味のときには温かいお湯を使い、女性は生理中に衛生的に保てるなど、ちょっとした身体の不調時に寄り添ってくれる存在のようだ。
使う頻度は朝晩の2回という人が、私の周りでは多かった。
機会があったらぜひ使ってみるべき! と強く勧められたので、ホテルのビデを試してみた。
使い方について聞くと、厳密な決まりはなく、座る向きも好みで良いという。お湯が溜められるようになっているが、流しっぱなしで使用するもののようだ。
実際に使ってみると、日本の温水洗浄便座のビデよりもかなり水量が多く、空気を多く含んだ水流はあたりがソフトだ。
日本の温水洗浄便座が点状の水が当たるものだとしたら、イタリアのビデは面状の水が優しく撫でていくような感じだった。
ビデの横には石鹸とタオルが置かれていて、洗った後に拭けるようになっている。
 

愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」

※ビデの横には石鹸とタオル



 
翌日も、私のビデ初体験話で盛り上がっていたところ、イタリア人のひとりが「そもそも、ビデという言葉はフランス語だよね? フランス人はあんなに素晴らしいものを手放してしまったなんて!」と。
すると今度はフランス人の同僚が「フランスにはイタリア式シャワーがあるんだよ」と返す。
イタリア式シャワーとは、シャワーカーテンの代わりにガラス板で、浴槽と浴室の境を区切ったもの。
ガラスの透明さを保つための手入れが面倒だが、その分、お洒落で上質なものというイメージがあるそうだ。
今回、私が宿泊したホテルもイタリア式シャワーだった。「イタリア人は自分たちの文化はちゃんと残してるよなぁ」とフランス人の同僚。
 

愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」

※イタリア式シャワー



 
そこに、最近、家を買ったというイタリア人の女性が話に加わった。
家を買う前に物件を内覧をしていたら「フランス式トイレ」をいくつも見かけたという。
それは何!? とフランス人の同僚たちと興味津々で聞くと、トイレだけが単体の小部屋になったものを指すそうだ。
日本やフランスではお馴染みの、いわゆる普通の個室トイレだが、イタリアではフランス式になるそうだ。
彼女が新居に付けたビデをみせてくれたが、トイレと同じ形のモダンなデザインだった。
 

愛すべきフランス・デザイン「イタリアとフランスを行き来したトワレット文化」

※モダンでスタイリッシュなビデ

 
ビデの歴史を振り返ると、1700年頃にフランスで登場し、マリー・アントワネットの時代には宮廷で使われていた。
その後、19世紀に入り、上下水道が完備され、セントラルヒーティングが開発されると共に、シャワーが発達し、フランスでのビデの存在は徐々に薄くなっていった。
フランス語で「トワレット」とはトイレ以外にも、身支度や、洗面を意味する。
フランスとイタリアの間を行き来するトワレット文化だが、双方、やって来た国の名前を残した呼び方に、リスペクトを感じる。洗面所で密かに起こっていた、イタリアとフランスの文化交流が微笑ましい。
 

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Posted by ウエマツチヱ

ウエマツチヱ

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tchie uematsu
フランスで企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速い。